Wargame: European Escalation マルチプレイベータ雑感

マニアなミリタリーストラテジーを求める声に応えて、
RUSEの開発で有名になったEugen Systemsの新作が「Wargame EE」だ。

何度か発売が延期されて居るゲームだが、今は2/24のリリースに向けて、予約購入者を対象にマルチプレイベータが催されている。
早速プレイしてみて、「素晴らしいゲーム」だと確信したので紹介しておく。

 
  



■ゲームのテイスト
このゲームは1960〜1990年くらいのいわゆる東西冷戦時代を扱った、軍事リアルタイムストラテジーだ。
RUSEと開発元が共通とは言え、ゲームの仕組みはかなり異なっており、どちらかというと会戦級ストラテジーの傾向が強くなっている。

・ユニットはあらかじめ戦場に配置する
・時間でリソースが増え、増援ユニットをさらに呼ぶこともできる
・敵を殲滅するか、有利な状況で一定の損害を与えたら勝利



■レベルとデッキコンストラクション
このゲームは東側と西側の陣営に分かれており、対戦も東側と西側に分かれて行う(設定をいじれば、西側同士、東側同士でも対戦できる)。
その際に、どのユニットを繰り出すことができるかを決めるのが、プレイヤーそれぞれのデッキである。

プレイヤーにはレベルがあり、レベルが上がる毎にスター(★)を獲得できる。
同様に、ユニットそれぞれにもスターが設定されており、獲得したスターを消費することで、そのユニットをアンロックできる。
そして、アンロックしたユニットをデッキに加えることで、そのユニットを実際にゲーム中で使えるようになるという仕組みだ。

デッキに含まれているユニット以外は、どうやっても出せないし、デッキで許されているユニット数を使い潰してしまったら、それ以上のユニットも出せない。
つまり、デッキが生産タイプ兼生産上限を意味するような形だ。

ただし現状では、デッキに加えるユニットの数の制限が緩く(派生系を除いてカテゴリー毎に5タイプ)、とにかくアンロックしたものを手当たり次第に使っても何ら問題ないレベルになっている。



■マッチングと対戦システム
マッチングは近い実力の相手からランダムに相手を選ぶランクマッチと、誰かがホストとして干したゲームに参加するフレンドリーマッチに分かれている。

ランクマッチはやっている人が居ないのでよく分からないが、公式サイトを見る限り、かなり細かくラダーが組まれており、開発側が「競技性を重んじている」というスタンスは見て取れる。
フレンドリーマッチは、1:1〜4:4の設定で対戦出来る。1:1はあまり一般的ではなく、2:2か4:4がよく干されている。
対戦ゲームとして将棋が一般的な日本人の感覚だと「1:1のが仲間に迷惑かけないし気楽だろう」と思うのだが、世界的な発想だと「仲間が居る方が気楽だろ!」って話になるようだ。

西側と東側の陣営選択は自由に行える反面、どちらかの陣営を選んでゲームに参加することはできない。なので、ゲームに参加してから「自分の希望する陣営が開いていない場合は、あとから入った人が抜ける」という習慣ができあがっている。
デッキを組むのにポイントが必要なので、どちらかの陣営に偏ったデッキを持つ人もそれなりにいるはずで、もうひと工夫欲しい部分ではある。

ゲームの勝利条件は、なぜか説明書に詳しく書かれていないが、私の実感だと、
・敵の前進司令部をすべて破壊する(新たなユニット生産を不可能にする)
・敵ユニットを破壊して既定の点数を獲得する
のいずれかを満たした場合に勝利になるようだ。
勝利自体には「マイナービクトリー(辛勝)」〜「トータルビクトリー(完勝)」まで幾つかの段階があるが、点差で分かれるっぽい。

ユニットを破壊した時の点数は、敵ユニットの生産コストに比例するので、高級なユニットを使い潰すような戦い方をしていると、「気がついたら負けていた」という展開になりかねない。
なお、ゲーム中にセクター占領するという概念があるのだが、これは勝利条件とは関係ないようだ(関係あるとしているレビューもあるが)。

そして、勝利、敗北それぞれで、ゲーム内での活躍の度合いに応じて経験値が貰え、これが一定量貯まるとレベルアップして、★が貰えると言う寸法。
この為、レベルは相対的な強さ(経験、戦績、デッキの強さ)を示す基準として、まずまず有効に機能しているように見える。

まとめるなら、「隙があるなら敵司令部の破壊を狙いつつ、そうも行かないのであれば、相対的に有利な戦い方をして勝利を得る」というゲームになる。



■ゲームの流れ
実際にゲームを開始してから、対戦が終わるまでに知っておいた方がよい点をまとめておく。

・ユニット初期配置
ゲームがスタートすると、自分のテリトリー内に、ひとつの前進司令部(見た目は車両)と、ひとつの補給拠点が配置されている。
まずは、これらを適切な位置に配置しなおしてやろう。

補給拠点は周囲のユニットに燃料と弾薬を補給するのが役割で、前進司令部は設置されたテリトリーでユニット生産を可能にする役割を持つ。
なので、補給拠点はテリトリーの前の方の、交通の便の良さそうな場所に、前進司令部は後方の森の中にでも置くといいと思う。

次に、左上の数字に着目して欲しい。1500とか3000とか書かれているこれが、手持ちの生産ポイントだ。
WEEは初期配置のあるゲームなので、先ずはこの手持ち点の範囲で、ユニットを幾つかは位置していこう。

・ユニットの役割
ユニットはカテゴリーとして「兵站」「戦車」「偵察」「歩兵」「支援」「車両」「ヘリ」に分かれている。

ユニットは歩兵20=車両4=ヘリ2までが1スタックで、ゲーム中は主にこのスタック単位でユニットを操作する形だ。
極端に拘るのであれば、1ユニット=1スタックまで分割してバラバラに行動させることもできるが、操作量とゲーム性を考えれば、兵站と偵察部隊以外はまとめて動かす方が理に適っている。

兵站ユニット》
前進司令部と補給ユニットで構成されている。
前進司令部は、テリトリーを占領して収入を得るのに使用する。
補給ユニットは、戦闘ユニットの燃料や弾薬を補給するのに使用する。

《戦車ユニット》
このゲームの戦闘力の中核を担うユニット群。
移動力、装甲、攻撃力のバランスに優れたユニットが多いが、強さとコストは様々なので、質、コスパ、数のバランスをどうとるかで判断を要する。

《偵察ユニット》
このゲームには視界の概念がある。
しかし、一般的な戦闘ユニットは視界が狭い為、これを確保するために用いられるのが、偵察ユニットである。
戦闘力に対して、比較的割高なユニット群ではあるが、「敵の位置が分からないのに、こちらは見られている」状況は極めてまずいのでおざなりにはできない。

《歩兵ユニット》
歩兵ユニットは、素の歩兵そのものではなく、何かしらの乗り物に乗った状態で登場するので、実際には「歩兵+車両」と言った形式になる。
基本的に車両より弱いが、少し安いので、防御的に待ち伏せしての相打ち狙いが基本戦術になる。

《支援ユニット》
大まかに、遠距離砲撃を行える曲射砲と、自走対空車両に分かれる。
曲射砲の役割は、直接ユニットの破壊と共に、爆発によるスタン効果を与えられるのが大きい。やや劣る位の兵力差で戦車戦になっても、支援砲撃が適切なら動きを止めているうちに狩ることが出来る。

《車両ユニット》
歩兵ユニットで歩兵が乗っている乗り物の、歩兵が付いてこない版である。
ものによってはコスパ的に有利なものがあるかもしれないが、単体で使うことはあまりない。

《ヘリ》
対地戦闘を主とする航空ユニット。
ヘリであっても、補給ヘリは兵站、偵察ヘリは偵察に分類されている。
地上ユニットに対してのアウトレンジが有利だが、機銃での撃ち合いはさほどでもないので撃ち尽くしたら、素直に補給するのが賢い。

・戦闘開始〜中盤
索敵ユニットを先頭に、戦車ユニットを横に広げて進行させる。

新たなテリトリーの確保は、生産ポイントの上積みになるので是非取りたいが、前進司令部のコストである200点は、迂闊に破壊されると負けの理由になるほど重いので注意。
この為、敵にテリトリーを取らせ、防御が定まらないうちに司令部の破壊を狙うのが基本戦略となる。
これを逆手に取ったプレイも当然できるので、メタゲーム要素が豊富である。

・中盤〜終盤
初期配置したユニットは動かしているうちに燃料や弾薬が切れる。
マップの端から端まではいけないレベルで切れるので、かなり切れやすいイメージになるだろう。
あらかじめ、どう補給するのかを考えておくと、スムーズに行動を持続できる。

ここでもこれを逆手にとって、敵打撃部隊と、後方策源の間にこちらの奇襲部隊を割り込ませるなども有効。
燃料が完全に切れた戦車は動けないので、対戦車ミサイルで容易にアウトレンジできる。

・結末
ゲーム中の得点は画面右に表示されているが、ゲームになれるまでは、「気付いたらゲーム終了だった」というパターンが多いが、それでも仕方ない。
ギリギリ決着が付くか付かないかの瀬戸際の場合、リスクを減らす意味で、安い歩兵を使った攻め(脆弱部への奇襲)に切り替えるなどもあり。



■ゲームとしてのおもしろさ
RTSでは「ユニットを遊ばせないように」、「相性のよいユニットをぶつける」のが必勝パターンだ。
99%のRTSはこの原則さえ守っていれば勝てる。

Wargame EEでもこの原則は通用するが、そこに補給とユニットの移動速度の問題が出てくる。
このゲームのユニットは足が遅く、かなりの頻度でガス欠を起こす。
弾薬も無限ではなく、二回ほど交戦すれば、弾切れになってしまう。
それ故に補給を交えた戦い方が重要になっている。

例えば、「敵を探して前に出る」という単純な行為自体が、「自分だけ多く燃料を消費し」「自分の補給線は伸び」「敵の補給線は短縮される」というデメリットを持ち合わせる。
一方でより多くのテリトリーを持つことは、より多くのユニットを出せる事に繫がる。
同質のユニットが互角にぶつかれば、数が多い方が勝つのは自明なので、前に出ない消極策も安直にはとれない。

この為、「敵を意のままに誘い出して仕留める」のを「お互いが狙う」という、「裏の裏の裏はやっぱり裏か!」というゲーム性を持っているのだ。

優秀な定石をなぞってさえいれば、誰でも平均までは行けるゲームではなく、本当のゲームを楽しみたいと思うなら、Wargame EEはうってつけのゲームだと言える。

※RUSEや大戦略Ⅳが好きだった人なら、絶対に買うべきタイトル。