RTSの話:速攻戦略とそのおもしろさ

私は軍ものが好きなので、ゲームにおいてもその傾向が強く、未だにCompany of HeroesはCPU相手にソリティアしているし、ちょっと前まではRUSEでそれをやっていた。

RUSEと言えば、このゲームはよくできたAI設計がなされたゲームで、CPUのアルゴリズムに幾つかのパターンがあった。
そのうちのひとつに速攻戦略を採用するブリッツクリークっていうのがあって、非常に極端な速攻機動をかけてくる。

今日はそう言う話。

 
 http://www.youtube.com/watch?v=enGnBsLft04
 埋め込み出来なかったので直リン。RUSEの航空速攻の例。戦車は出さない。
 というか、戦闘ユニットは零戦しか使わない。



リアルタイムストラテジーにおける速攻戦術のメカニズム
RTSの基本的な仕組みは、

(1)弱いユニットを作る
(2)弱いユニットで資源を確保する
(3)集めた資源で強いユニットを作る
(4)資源を奪い合いながら相手と戦う
(5)最終的に押し勝つ

って流れ。
何にでも例外はあるが、RTSに関しては10作品中9作品以上はこのシステムで出来ている。
そして、このうち、1にあたる弱いユニットや、3の段階でつくるごく初期の戦闘ユニットで敵拠点に殺到して一気に勝利を決めてしまうと言うのが速攻戦術というものだ。

通常、初期に集めた資源は中長期的に見て有利になるような、生産効率の拡大や、その後必要になる戦闘技術の開発なんかに振り向けるのが常套だ。
なので、それを無視して、その分をすべてユニット生産に回せば、当然、(一時的にではあるが)戦闘を有利に進めることが出来る。
この為、速攻戦術を喰らった側はなすすべもなくやられてしまう。



■速攻戦術に対して対応する
速攻戦術は決められた手順を素早く正確に行うだけで実現できる為、非常に強力な戦法だと言える。
この為、速攻戦術を仕掛けない側であったとしても、「相手が速攻で来るかも知れない」って事を念頭に置いて序盤を生きる必要がある。

ただ、念頭に置いているだけでは「そう来ると思っていたぜ!」って言いながら負けるので意味がない。
対策を実施する必要がある。

それが対速攻戦略だ。
ゲームによって若干の差異はあるが、速攻戦術にはある種の弱点がある。

それは、速攻側が攻撃ユニットを生産して、敵陣まで移動する間に掛かるタイムラグだ。
速攻の場合、相手の拠点で戦うことになるので、速攻側がユニットを戦力化するまでの時間は「ユニット生産時間+敵拠点までの移動時間」となる。
一方、速攻を受ける側は移動時間をほとんどゼロに出来るので、資源を費やしてからそれが有効利用されるまでの時間を短くできる。

具体的な数値で例を出すなら、
ユニットの生産時間が5、敵陣までの移動時間が10のゲームがあったとする。
このとき、速攻を受ける側は相手よりも10時間単位分ユニットの生産を遅らせても互角の勝負が出来る。
この時間を有効に使えば、速攻側の攻撃を凌ぎ、しのぎきった後は今度は自分が有利にゲームを展開できるようになる。

つまり、速攻側が10個の戦闘ユニットを作っているのを見たら、8〜9個の戦闘ユニットを作って待ち、敵の侵攻に合わせて全力増産するような行動になる。
こうすれば、敵軍着弾時には10〜11のユニットが手元にでき、5時間単位毎にこちらのユニットが増強されていく。増強は速攻側も可能なのだが、速攻側では戦力の逐次投入になるのに比べ、防衛側は目の前が戦場であるため、すぐに戦闘に参加できる。
はじめに僅かに少ないユニットしか用意していない為、その分は有利になるという寸法である。



■速攻側の対速攻戦略対策
速攻側が勝負を決めきる目的以外で速攻をかけるやり方もある。
それは敵側のワーカーユニットや、脆弱な施設などを攻撃し、破壊した上で撤退するというもの(あるいは、死ぬまで戦う)。

速攻に用いたユニットのコストと、防衛側が被った被害(主に時間的な被害)がおりあうならば、速攻側にメリットが出来てくるという寸法。
このあたりはゲームデザインに寄る所が大きく、これが非常に有効である場合、「勝ちを目指すなら、やらないとならない」ってくらいのプライオリティになる。この為、近年のRTSでは、初期拠点付近を堅くしたり、ワーカーにも微弱な戦闘力を持たせるなどで対応出来るようにしてあるものが増えている。



■速攻と対速攻はRTSプレイングの基礎
「攻勢を仕掛ける側は進化を捨てて軍拡をし、攻勢をしのぐ側は進化をしつつも対応できるだけの戦力を用意する」
「攻勢をはねのけたら、敵よりも優れた技術で強軍をこしらえて反攻する」
って要素に、その判断材料となる「索敵」を取り混ぜたものはまさにRTSのプレイングのすべてだ。

逆に言うと、「適当に速攻をかけても、かけた側が非常に有利」というゲームは論外にバランスが悪い。
速攻に成功したらそのまま勝ち、相手が対応してきても、特別な不利益を被らないとかそういうゲームで、こういうゲームの場合、好む好まざるに関わらず、速攻をかけるのが定石になってしまう。内政に力を入れてジワッと行きたいと思っても、対速攻戦略の観点からある程度は軍を出さねばならず、どうせ軍を出すなら、相手が来ない場合は攻めに回らねば損になってしまうからだ。
実際の例で有名作だと、Age of Kingsなんかがこの傾向を持っている(が、これはこういう意図でデザインされたゲームでもある)。

今日言いたいことは、「そのRTSがいいゲームなのか、ダメなゲームなのかは速攻戦略の機微の完成度を見れば分かる」という事だ。

・速攻を仕掛ける意味がある
・ただし相手が綺麗に受けきったらやや不利になる

という設計になっていれば、そのゲームはおもしろい。
セールで数ドルでゲームを買ったら、この辺に着目してプレイすると「やり込む価値」の目算ができて合理的である。

他にも、「操作量とゲーム的な意味のバランス」であったり、「決戦から決着までの時間」であったりの要素もRTSを計る上では非常に重要なのだが、それは別に機会に。

 
  COHやDOW2は速攻そのものが内政拡大になるという新次元を切り開いたゲームだった。機会が許せば、この辺も追っていきたい。